意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

ハッピーオリオン

今日はシキミの運動会だったので、朝から出かけた。焼きそばパンをつくると言うので、私はパンにマーガリンを塗り、焼きそばをはさんでいった。粗悪なパンなのか、バターナイフを動かすとパンの中がえぐれたので、マーガリンはいい加減に塗った。焼きそばはどのくらい入れればいいのか塩梅がわからず、少なめと多めのパターンを用意した。それでもお昼にそれにぱくつくと、懐かしい味がした。世の中の焼きそばパンも、割といい加減に作られているのかもしれない。私は焼きそばパンを食べるのは、小学生以来だった。いや、中学生や高校生や、それ以降も食べた気がする。そのときは、おそらく焼きそばとパンの組み合わせを食べているつもりで、頭の中では、「焼きそばパン」と認識しなかったのだ。

子供の頃、近所に「ハッピーオリオン」という名のパン屋があって、近所、というのが誤解を与えるから補足をするが、車で5分から10分の距離である。普通なら5分だが、母親は慎重な運転をし、さらに市内しか運転しないドライバーだと自称していたから、10分くらいかかった。しかし私の通った病院は市外にあって、さらに新幹線の線路の下をくぐったりする道のりだったので、母にはずいぶん負担をかけた。幼い記憶の中で、母は新幹線の線路をくぐって登り坂となったところで、エンストをしていた。当時はまだ、オートマが一般的ではなかったのだ。

おそらく幼い私は、「ハッピーオリオン」で生まれて初めて焼きそばパンを食べ、その味にハマったのだが、それよりも、書きながら別のパンのことを思い出したので、そのことを書く。それは「ビッグメロンパン」と私が勝手に呼んでいたパンで、文字通り、通常よりも二まわりくらい大きなメロンパンである。大きさの比でいうと、四国とオーストラリアくらいの違いか? そんなにはない。

さらにビッグメロンパンには、中にバターが塗られていて、味が濃い。それが私のお気に入りの理由で、10代の私は、夕飯前でも平気でそれを一個平らげた。そのころにはパン屋には母がひとりで買いに行ったので、私は母に
「ビッグよろしく」
と、オリジナルの名称をさらに略称で呼ぶという、屋上に屋根を重ねるような行為をした。だがある日、ハッピーオリオンは店じまいをし、最初は店内改装で、しばらくしたら営業再開するという噂だったが、結局そのまま店じまいした。その頃には私も運転免許を取得していて、何度も店の前を通ったが、ドアの前に工事用のオレンジと黒のストライプの柵が立てられていて「立ち入り禁止」と書かれていて寂しかった。

それでこれは全くの偶然なのだが、その後私はコンビニでバイトをしたら、そこのパートの主婦が、以前はそのパン屋でパートをしていたと言う。私は
「でかいメロンパンありましたよね? 俺あれ好物だったんすよ!」
と話すと、
「あれは、「UFOパン」ていうのよ」
と教えてくれた。そういえば、UFOのような形状をしていた。マーガリンはペースト状にされた宇宙人を現していたようだ。実はUFOパンは密かに父も好きであり、私は父の座椅子の裏に、食べかけのUFOパンを隠しているところを、何度も目撃していた。父は、小動物のような一面をもち、お気に入りの食べかけを、座椅子の裏に隠す癖があった。

「あれは結構ファンが多くて、でもあんなの食べ続けたら、すぐに太っちゃう」
そのパートの女は、ものすごく痩せていて、髪も染め、イエローモンキーの吉井に少し似ていた。さらにハッピーオリオンの店じまいの理由を、店長の奥さんが出て行っちゃったから、と教えてくれ、私はその理由は吉井にあるのでは? と邪推した。