寒いがプールへ行ってきた。屋根付きのところだから寒くなかった。しかしトイレ等、一部寒いところがあった。何週間か前に屋根のないほうに行ったが、そっちより波のプールも流れるプールもしょぼかったので、
「しょぼいなあ」
と波にもまれながら話した。そこで私たちは波打ち際で腰を下ろし、相対的に波を高くする作戦に出た。案の定私たちの体はバランスをとることが難しくなり後ろへ押し出された。水底はコンクリートが敷かれていて、深いところはつるつるしているのに、ある一定の浅さをすぎるとざらざらして、下ろし金のようになっていて、私は背中を擦ってから
(下ろし金のようだ)
と思った。連れに
「血でてる?」
「出てない」
「赤くなってる?」
「なってない」。
連れとは小学二年の娘である。小学二年は男子更衣室では居心地悪そうだったので、私はすばやく着替えた。
監視員は全体的に暗い顔をした人が多く、屋外のプールの監視員はみんな日焼けして、大学生くらいの男女でみんなアルバイトという感じだったが、ここの男女はもう少し年齢が上だ。だから、太っちょもおばさんみたいなのもいる。正社員なのだろうか。正社員だから暗い顔をしているのだろうか。
あと流れるプールで異常に流れが速い箇所があり、ランニングマシーン水中バージョンをして遊んだ。
あとシキミがビート板を持っていたので、もし自分が溺れたときに、岸からビート板を投げられたら自分が助かるかどうか試してみた。こんなスポンジみたいなのじゃ、とても助かりそうにない。しかし、落ち着いて、手のひらをビート板の面に水平に置いてゆっくり体重をかければ、なんとか浮上できそうだ。やはり溺れないのがいちばんである。
シキミが勇気を出してスライダーをやるというので、私たちは階段を並ぶことにした。その前には
「クレープを食べたい」
と言うので、中二階の軽食コーナーへ行って並んでいたらちょうど「10分の休憩時間」だったので、けっこう人が並んでいた。前のカップルが男のほうが痩せていて、女の方がころっころしていて、そういえば今日は全体的にころっころしたのが多いなと思った。屋内だからか。屋外のときは、もっと、やせているのが沢山いた。ころっころした女性を見ていたら手塚治虫の「ブッダ」で乱暴者のバンダカという男が、ブッダの妻のヤシャダラに手を出そうとするが拒否られ、ヤケクソでカビラバストゥの貴族のころっころした女と結婚して子供を産ますエピソードを思い出した。
「俺はな、バレーボールみたいなころっころした女が好きなんだ」
と言ったりするが、とても本心に思えない。バンダカはとにかく貴族の女と一緒になりたいだけだ。虚栄心が強すぎるのである。結局悲惨な最期を遂げる。
それで、前の男女が券売機の前でサラダうどんのボタンをどちらが押すかでいちゃついているので、私が無表情でいたら、やがて気配に気づいて二人は恐縮した。そして私たちはアメリカンドックとフライドポテトを食べた。フライドポテトは揚げたてで、安い油の香りがした。
そうして食べ終わって私たちはウォータースライダーの階段にならんでいたら、100mコースと50mコースがあって、初心者の私たちは50mだ。私は初心者ではないが、シキミがびびっているので、私もドキドキしてきた。100mのほうは女子のグループがいて、高校生くらいか、女になりきらないようなビキニを身につけて、ひとりの女なんか、尻に虫さされがあって、私は微笑ましい気になるが、凝視はしない。それで、アメリカの柄のビキニをつけた女が、
「ゆまっち、谷間やべーって、もっと出せよ」
と乱暴な口を利き、ゆまっちはビキニの上に白いカーディガンを羽織っている。下も半ズボンだ。これから高校デビューなのだろうか。しかし二学期は目前に迫っている。どうやらアメリカ柄がいちばんのボスのようで、アメリカがいちばんスタイルも良い。化粧もそれなりだ。アメリカのビキニとは、アメリカの国旗のビキニで、右胸が独立時の州の数、左胸が現在の州の数である。どれだけアメリカかぶれなんだと思うが、日本の国旗の方が卑猥になりそうだ。
それで私たちは何度もスライダーをすべっていたら、あっという間に3時間が過ぎ、3時間で出てこないと延長料金がかかるので、急いで着替えなければならなかった。私は局部の露出度を気にすることなく大急ぎで着替えてシキミの着替えを手伝って外に出たら、ビート板を忘れてきてしまい、受付の女にその旨を伝えたら、
「赤いポールをどかして入ってください」
と言ってきて、私がこのまままた泳ぎに行ったらどうするのだろう、と思った。しかし彼女には私がとても信用のおける人物に見えたのかもしれず、確かに私は他人によく、
「やさしそう」
とか言われるのである。
※小説「余生」第65話(最終回)を公開しました。
余生(65)※最終回 - 意味を喪う