意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

ジャズとロックの違い

昨日こちらの記事を読んで、そういえば私の勘違いかもしれないが、この方は以前もジャズがわからない旨のことを書いていた気がする。「ジャズ」と大きくくくってしまうからではないか、と思った。私は比較的好んでジャズを聴くが、それでも突然
「ジャズってなんですか?」
と訊かれたら答えに窮する。ジャズに興味あるんですけど、何から聞けばいいですか? とかでも同じ。前に保坂和志山下澄人の対談を動画で見たときに、保坂和志が、
「おすすめの本を、て言われるんだけど、そういう人って本て、このくらい、て思ってんだよね」
と言って両手を広げた。つまり、「“本“を読みたい」と思う人は、1ヶ月とか、一年集中して読めば、本というものが体系的に理解できる、自分の中にインデックスができる、と思っているが、それは勘違いですよ、という意味である。だから私は本を読まない人は愚かである、と言いたい気持ちもあったが、書きながらそういえば私がドラムを一生懸命練習していたときは、最初四分音符、八分音符、十六分、三連符、六連符を、あらゆるテンポと強弱で叩ければ一通りマスターしたことになるのではないか、と思っていたが、実際は違った。そこまでできるようになって、ようやく自分の実力のなさが理解できた。だから、無知な人ほど物事を小さくとらえるのは、人間の防衛本能とか、そういう類なのかもしれない。山下澄人は黙って保坂和志の広げられた両手を見ていた。保坂の話に同意しているのかどうかはわからなかった。対談は保坂が九割くらいしゃべった。

では逆になぜロックやR&Bやヒップホップはわかってしまうのかというと、おそらく毎週のように放送される音楽番組で、
「これはロックですよー」
と、延々と文字で浴びせ続けるからで、私たちはわかった気にされてしまうからである。本当のところわからない。私は特にR&Bというものがわからず、16ビートのロックとの違いがわからない。

私は以前はロックとジャズの違いについて、4ビートか8ビートかで区別していた。4がジャズで8がロックである。もちろん4じゃないジャズもあったが、それは例外ととらえていた。しかし新しいミュージシャンの演奏を聴くと4ビートはほとんどないから、ジャズは4ビートではない。さらにヒップホップやら電子音やら民族音楽をじゃんじゃん取り入れるので、わけがわからない。

以前知人と小説と詩の違いとは何か、をメールでやりとりしたときに、結局書いている人が小説と言えば小説、という結論になった。短歌と小説の違いもそうだろう。短歌は定型だから、いくらなんでも書き手次第、というのはおかしいという意見もあるかもしれないが、自由律というのがあるのだから、単行本300ページの短歌があっても全くおかしくない。現実に存在しないのは、まだ短歌がそこまで拡張していないからで、いずれはそういうのが書店に並ぶ日もくるだろう。そういうのは短歌として認められない、と思う人もいるだろうが、そういうのは、4ビート以外はジャズじゃない、と主張する人に似ている。古いジャズに固執し、マイルスもコルトレーンも認めないという人もいる。もちろんそういう価値観があってもいい。マイルスはあるときアコースティックばかりだったジャズに電子楽器を持ち込んで、それはやがて「フュージョン」というジャンルになった。しかし、今はフュージョンなんて言わずに、それもジャズの一部として捉えられることが多い。みんなが「それもジャズだね」と気づいたのだ。みんなって誰だか知らないが。だから、短歌もいずれはあれも短歌、これも短歌、となって、どうしてもルールが必要なときだけくっつければいい。そういう自由さが認められなければ、早晩衰退していくのだろう。

全然関係ないが私が初めて就職した職場はやたらと自己紹介ばかりやらせるところで、同じことを言うのにだんだん飽きてきた私はあるとき、
「好きな音楽はジャズ、フュージョンです」
と言ったらみんなに煙たがられた。