思えば短い夏だった。寒さに目を覚ますとまだ午前6時で格別早い時間ではないが私も子供も休みだしなにしろ脚の脛から先が冷え切って情けなかった。昨夜は寝巻きをそれまでの半ズボンをやめ冬でも履く長ズボンに替え上もトレーナーをかぶったがそれでも効果はなかった。薄いタオルケットを頭からかぶると端に穴が開いていて恨めしかった。先週まではそんなことを気にもとめなかったが縮こまった体が心までも狭くする。先週までは天国だった。彼の部屋にはクーラーがあるがベットがあるのはその奥の部屋でドアを開けっ放しにするが冷えは悪くいざ寝ようとすると体がむっとして不快だった。しかし元来寒がりの彼は少し辛抱していればたちまちに深い眠りに落ちた。また暑さがひどいときにはクーラーの温度を下げた。古いクーラーなので風量を「弱」にすれば寒いくらいだった。いつもは「微」である。リモコンもない。本体から壁づたいにコードが延びて柱にスイッチがくくりつけられている。彼はいつも畳んだ洗濯物を踏まぬよう背伸びをしてスイッチを入れたり切ったりした。
毛布が必要だと思いさっそく妻にかけあい三枚用意してもらった。もうそのままにでもくるまりたい気持ちだったがまずは洗濯しないとならないと妻は言う。コインランドリーには彼が行くことにした。若松町のコインランドリーなら洗剤のお金がかからないと言われはてそんなところにコインランドリーはあったのかと思ったがあまり問いただしては妻が不機嫌になるばかりなのでいったんは口をつぐんだ。妻が出かける直前に再度訊ねると
「あなたが何年か前に通った接骨院の向かいですよ」
と言われしかしあそこは中古車屋古いアメリカの車を歩道にはみ出るくらいに並べた中古車屋ではなかったかと言うと妻は目をまん丸くし夢でも見ているのかと言う。果たして言ってみると元々コンビニだったところの看板にシャボンの絵が書いてあり中に掃除の女がいたから訊ねてみるともうこのコインランドリーは20年やっておりその前は貴方の言うようにコンビニだった今そのコンビニは坂の下の公民館のそばに移ったことを言った。移ったことは知っておりまたいったんはコインランドリーになったことは知っているがそれが何年か前に中古車屋になったと思ったがあれは夢だったのかもしれない。30分もすると毛布は洗い上がり良い天気なので家に帰って物干しにかけた。その間子供はまだ夏休みの気が抜けないのか小さないびきをかきながら眠り続けていた。