意味をあたえる

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うまい魚

最近よくゲームの思い出等の記事を目にするので、私の中でも思い出すことがありそれは「うまい魚」

「うまい魚」はファイナルファンタジー6で出てくる魚で、他にはまずい魚とふつうの魚があります。たしかゲーム中盤で一度世界が滅び、そのあと仲間たちもバラバラになって、セリスが主人公となって登場します。連れにシドという老人がいて、シドは病気で寝込んでいます。そこでセリスが魚を捕ってくる、というストーリーなのです。それで、どうにもこうにも最後はシドは死ぬ運命なのですが、「うまい魚」を食べさせ続けると、シドは死なずにすむ、というのをある日読んだ雑誌で私は知った。そこには細かい写真が何枚も貼ってあって、二列あり、片方はまずい魚を食べ続けて、最後は咳でまともに喋れなくなって(肺の病?)死んでいくシド、もう一列は
「だいぶ楽になった」
だの言いながら、生き長らえるシド。それはファミ通という雑誌だったのだろうか? 違う気もする。

実は私はそのとき、まだ序盤の方しかクリアしていなかったので、
(しめた、良いことを知ったぞ)
と思い、シドを死なさないことにした。別に死んでも死ななくても、そのあとのストーリーに大して影響のないことは、当時の私にもわかっていたが、犠牲者は少ない方がいい。だから、実際やがてその場面がやってくると、私の操作するセリスは入江に赴き、魚の捕獲にかかる。ところが、入江にはふつうの魚と、まずい魚しかいなかったので、私は困ってしまった。雑誌には魚の見分け方も紹介されており、うまい魚はすばしこく、まずい魚はのろく、ふつうは普通だった。だから、私は最初、うまい魚を見たのだ。しかし、一回食わせたくらいでは、
「ゴホッ、ありがとう」
というだけで、ちっとも良くなっている感じはしないので、続けて捕りにいく必要があった。それで、再び入江にいくと、いないから困ってしまったのである。仕方なく、ふつうの魚がいるときはふつうの魚、まずい魚しかいないときは、仕方なくまずいの、というルールでやっていたら、やがてシドは死んでしまった。うまいが連続しないとダメなのである。リセットを押し、やり直し、今度はうまい魚が出てくるまで、魚の捕獲を一切やめたら、今度はシドが飢え死にした。

ひょっとしたら雑誌の記事はかなりの低い確率で起きる事なのかもしれない、と私は憤りながら思った。下手に生き延びるチャンスがあると知らなければ、素通りするシーンを、私は何度も繰り返し、うまい魚に挑んだ。うまい魚のすばしこさが、夢に出てきた。そのうちに、私はコツのようなものをつかみ、シドを飢え死にさせない程度に引っ張りながら、うまい魚を継続的に獲得する技術を身につけた。


※小説「余生」第38話を公開しました。
余生(38) - 余生