意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

保護者欄

子供が中学に通い始めて、どういうわけか親も文章を書かなければならない場面が増えた。保護者欄というやつである。私の地域だけなのかもしれないが、定期テストの成績表やら、修学旅行やら日記やら、本人の総括欄の下には、必ず「保護者からひと言」というのがあって、「ひと言」というくせにそれなりのスペースをとってあって腹が立つ。ひと言って、「はい」とか「別に」とか、「いいじゃん」とかそういうのではないのか。そういえば校長やPTA会長という人たちが体育祭などでよく、
「最後にひと言」
と宣言しつつもそこから本題が始まるみたいなのがお約束としてあったが、あれはおかしい。倒れる女子生徒もいた。中学のときに私の斜め前の女子が仰向けに倒れ、顔色が青というより緑色になっていて、私がこれこそ本物の体調不良なんだと思った。

昨夜もナミミがいきなり冊子を持ってきて、その最後のページに保護者の署名と、保護者欄があって、四角の上に「夏休みを振り返って」なんて書いてある。だけれど、弓岡さんなら毎日雑多に書いてるんですからこんなの朝飯前でしょ? なんてお思いの方もいるかもしれないが、私だって
「夏休みもなにも、私には振り返るべき夏休みはありません、会社がくれないのです。厳密に言えば任意で1日つくのですが、指定されていないぶん、同僚との駆け引きがあって、思うような日に取れないのが現状です。私の部署は独身が多くて、そういう人たちは9月に取りたがる。シーズンを外してゆっくり休む魂胆です。しかし、みんなが9月だと9月に人が足りなくなってしまうから、8月に半分くらい休んでもらうのがベストなので、私は話のわかりやすそうな人に、
「どうです? 来週とか、だいぶお疲れのようだし」
などとおべっかを使って休むよう促すのです。ちなみに私は管理職ではなく、ただの平社員です。そんなことは私の業務外なのですが、私は他の人よりも頭が回る分、そういうところにも目が行ってしまい、目がいくとどうにか解決の道筋をつけないと気が済まない性分なのです。それが私のウィークポイントなのかもしれませんが、そういった謙虚さが私の優れた人間性とも言える」
という具合ならば、それなりに書ける。しかし、学校という場所は、「好きなように、自由に」なんて顔をしながら、腹の底では相手にかなり細かいことを要求する場所なのである。だから「ひと言」と書かれていたって、2行3行は書かなければならず、出過ぎず引っ込みすぎず、問題点を2、3並べたら、最後は「がんばりたいです」みたいな前向きな文句で締めなければならない。親も優等生を装わなければならない。どうして大人になってまで、こんな相手の顔色を伺わなければならないのか、情けない気持ちになるが、子供を人質に取られているようなものだから、やはり「自由に」は書けない。変に出しゃばっていると認識されれば、子供が担任に逆えこひいきされてしまうかもしれない。

昔、私の両親はNHKの受信料を払っていなかったが、あるとき集金の人が
「受信料を払わないと、お子さんが学校でいじめられますよ」
と言われ、払うことにしたらしい。話としては微妙かもしれないので、このエピソードは私の創作として読んでもらいたいが、その話を父親から聞かされたとき、私は自分のせいで家の出費が増えたような気がし、申し訳ない気持ちになった。同時にNHKは子供をダシにしてずるいな、と思った。いつだって親は子供に弱いのである。

しかも私はそれからしばらくして、クラスメートのイジメを受けたので、結局払っても払わなくても同じだった。