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意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

冬はつとめて

朝早く起きて走った。子供が学校へ行く時間になるのでそんなには走れなかった。最近は寒いのでサボることが多くなった。家のすぐそばを通る国道をトラックが走り抜ける音を風の音だとわざと勘違いし、向かい風で走るのは難儀だろうと諦める日もあった。しかし向かい風で走ると早く体が暖まるからそういうぶぶんでは本当は楽だった。しかし追い風に転じると一気に体が冷えるのはつらかった。走っていても体温が上がらなくなるのである。だから風はないほうが良かった。近頃は坂道を避け、土手のそばを通るようになったので、比較的風は強かった。以前この地域は水はけが悪く、大雨が降るとしょっちゅう浸水していた。誰に教えてもらったのか。地元の人は決して住まない地域だった。何年か前の友人の結婚式で、隣に座った人がその地区の出身だった。私は最初まったくの他人だと思っていたら、昔に二回くらい会ったことのある人だった。彼女は結婚していた。未婚でも私は向こうから言われるまで気づかなかった。言われてもにわかには思い出せなかった。
「ライブ見に行ったことあるんですよ」
と言われてもなお思い出せなかった。次第に思い出した。その人はアイドルユニットのwinkの片割れに似ていた。当時もそんなことをぼんやり思ったが、とくにそれを指摘しなかった。winkは私が小学くらいにデビューして、友達の家にあった雑誌の裏表紙(背表紙?)に出ていて友達が「どっちが好き?」と訊いてきて、そのとき友達は自分の部屋の椅子に座っていてそれはクッション以外は金属で金属は若干錆び、私にwinkについての嗜好を訊ねるために反転したら「ぎい」と音を立てた。私がそのとき選んだのは後に二度ほど会うことになる、大雨が降ると浸水する地域に住むある女に似ていない方を選んだ。すると、友達も「だよな」と言った。椅子がまた軋んだ。椅子も同意してるようだった。私の家の椅子はクッション以外は木で、くるっと回ったりしなかったので、たとえ古くてもそのように可動する椅子がうらやましかった。私の椅子にはシャリバンが描かれていたが、彼のはとくに何もなかった。私は後にシャリバンはともかく、可動しない椅子が恨めしいと両親に訴えたら、「お前が選んだんだろ?」と言われた。私はかなり古い自分を思い出しても「椅子は可動式」という信念を持っていたが、さらに古い時期にはそうでない時代もあった。シャリバンなんて、若い人はわからないだろう。無理に漢字で書くと「舎利番」となって、ブッタの弟子みたいだ。舎利仏は手塚治虫の漫画「ブッダ」では、サーリプッタと呼ばれていて、物語の後半で唐突に出てきてしかもその超能力に惚れ込んだブッダが「自分の後継者にする」と言い出し、古くからつき合いのあるアナンダとかタッタが嫉妬するのである。ブッダはもう碌したんじゃないかと陰口を言われたが、私も思った。ブッダ自身はどうか知らないが、話そのものはブッダが悟りを開いてから、少しキレがなくなったような気がした。とにかくサーリプッタブッダのお気に入りであったが、あるときサーリプッタは旅先で死んでしまう。しかしその死に様はとくに描かれることなく、使者が飛んでやってきて(実際手塚漫画のは飛んでくる)
ブッダサーリプッタが、旅先で事故死しました!」
と伝えるのみである。ブッダは「ガーン!」となってしまう。