意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

昨日のつづき2

さらに昨日書き漏らしたことがあったので書く。昨日はとても疲れていて、書くのがしんどかったが、書いているうちにあまりしんどくなくなってきた。最近気温が30度を超えはじめたせいか、体が妙に重く、だるい。そしてなぜか同僚のH・Kくんの言動が妙に引っかかり、口をきくのも嫌になってしまった。H・Kくんは前々からプライドが高いというか、自分の美学を押し通すところがあるのだが、そのためにたまに、1年先輩である私の発言を全否定してくることがある。私はH・Kくんのこういった性格は十分理解しているつもりだし、そういう押し通すところが無邪気というか、愚かだとも思うので、普段はあまり気にしないことにし、時には私の方が無知であるかのように振る舞う。ひょっとしたらH・Kくんは私を本物のバカと認識し始めたのかもしれない。ここまで読んだ人はわかるだろうが、私も相当プライドが高い。バカにされたと感じると、とにかく相手が憎くて仕方がなくなる。
帰り際に私がメールチェックをしていたら、その画面を見たH・Kくんは、その画面になPDFでいつものように、会社の的外れな指示が書かれているわけだが(もちろん私はそれを理解しているので、まともに読んだりしない)「在庫量をコントロールするのは俺らの仕事じゃないですよね」とまったく的を得た批判をした。私はその前に、開いた資料についてH・Kくんに説明をしていたので、まるで私が批判をされているような気になった。
「批判をするのは簡単だけど、上がこういう風に言ってきたら、関係なくても黙って従わなきゃなんない立場の人を考えろよ」
と反論しようと思ったけど、やめた。私は不機嫌そうな顔をしていたし、勘の良いH・Kくんはそれを感じ取ったかもしれないが、言葉や行動にさえ出さなければ、仕事の人間関係はセーフなのである。

話を戻すが、私はイトケン氏の一連のツイートに対して、誰かが「芸術にしろ、売文にしろ、多くの人の目に止まらなければ意味はない」と意見を言っていて、それは間違った考えではないかもしれないが、そんな簡単に言い切っていいのだろうか? と思ったのだが、今読み返していたのだが、その発言が見つからない。私の記憶違いか、妄想か、でも間違いならば、なおさら考えてみる必要がありそうだ。
何年か前に本屋でぶらぶらしている時(そこはショッピングモール内の本屋であったが、それは随分前にできた小規模なモールであり、それに合わせて本屋も小さい。いずれ淘汰される)、「⚪︎分で名作が読める!」みたいな書籍があり、要するに「武器よさらば」等の文学を複数取り上げて、あらすじを載せて読んだ気にさせるという本である。武器よさらば、なら看護師の女が出産したら母子共に死亡、みたいな具合だ。こんなズルっこみたいな代物誰が読むんだと思ったが、てっとり早く教養を身につけようという魂胆で、こういうことを思いつくのはビジネスマンであり、つまりゴルフ場で得意先を接待している時、相手がたまたま元文学青年であったときに「文学好きなんですか? 僕なんかヘミングウェイとか読んだことありますよ」と返すためであり、確かに世間話を盛り上げて商売に結びつけるためなら、下手くそなあらすじだけで十分である。
と、ここまで書いて、この後には「こんな「あらすじ」など、文学を冒涜していることに他ならない」という論旨に続いていくのだが、なんだかそれもつまらないので、逆張りで書いてみる。
村上春樹のエッセイというか、読者とメールをやりとりしたものをまとめたものを読んだ時に、その中の企画で、みんなでドストエフスキーカラマーゾフの兄弟」を読もう、みたいなのがあり、腕に覚えがある読書家がつぎつぎに挑戦しては挫折していくという内容であった。そして読み終わったらメールで報告して、一言、みたいな感じだったのだが、その中で秀逸なものがひとつあり「カラマーゾフの兄弟って「だんご3兄弟」みたいな話だと思いました」とあり、これは一見馬鹿丸出しな感じだが、看過できない深さがあり、村上春樹も返信で絶句をしていた。
カラマーゾフの兄弟とは、ドミートリー、イワン、アリョーシャの3兄弟が出てきて、欲張りのおやっさんがある日殺され、犯人はドミートリー!?みたいなストーリーなのだが、実は真犯人は隠し子の四男、スメルジャコフなのである。折しも当時「だんご3兄弟」が大ヒットしており、全国の団子屋さんは、そのヒットに便乗し、それまでは1串4個であった団子を3個に減らして販売を始めた。しかし単に減らしただけではぼったくりになってしまうので、内容量は同じにして、つまり団子1個の粒を大きくした。しかしそのせいで、いつもより大きくなった団子を喉に詰まらせ、死人が出てしまう。
隠された4個目が悲劇を引き起こす……これはカラマーゾフの兄弟の悲劇と見事に重なる。さらにおそらく喉につまったのは1個目の団子だろうが、容疑者にされたのも、長男のドミートリーなのである。
このようにあの、小説の最高峰、頂点とされる「カラマーゾフの兄弟」が、ひとつの歌によって、かくも簡単に説明がされてしまう。