意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

近鉄バッファローズ

私の家は坂の途中にあり、私の家の前の道は比較的平らであるが、左に行くと下がり、右に行くと上るから、坂の途中と言って差し支えはないだろう。坂を下る途中には竹藪があって、竹藪の中にはお墓がある。お墓は墓石がひとつ建っただけの小さなもので、通りからは階段をのぼったところにあり、階段は石でできている。階段の幅は人がひとり通れる程度だが、一段で1枚の石というわけでなく、石は途中で途切れている。もしかしたら最初は一枚だった石が、地震か何かで割れたのかもしれない。その途切れ目に蟻が巣を作り、夏の暑い日の、朝などには、蟻がわしゃわしゃと湧いて出てきて列をつくり、竹藪の落ち葉の下へ潜り込んでいく。蟻は大きくも小さくもない中くらいのサイズで色は真っ黒だ。列の先には虫の死骸でもあるのかもしれない。しかし、蟻たちはいつでも同じ方向へ列をつくる。

お墓は坂を上がった方にもあって、こちらは家と家の塀に挟まれるように建っていて、日にさられている。石の囲いの中には雑草が茂っており、あるときに通りかかるとその持ち主である老人が、草刈り機を家から持ち出して、スイッチを入れ草を刈り出した。老人の家はお墓から道を挟んで向かいにあり、草刈り機は電動だったので、コードを家から引っ張り、黒いコードは道を横断していたので、通りかかる車は容赦なくそのコードを踏んづけて行った。しかし老人はそんなことは意に返さず、緩慢な動作で、草を刈って行った。顔はしわくちゃでシミだらけであったが、声はしっかりしていて、電話で聞いた時は、50代くらいに聞こえた。

私が昨日、車でそのお墓の前を通りかかり、それから右にカーブしたら私の家があるのだが、カーブの途中に住んでいる家の人が、塀の向こうで木を削って庭の中に東屋をつくっている最中だったが、この人は犬を飼っていて、その犬を散歩させる際にはリードをつけない。その人自身も老人と言っていい歳頃で、独身で、変わり者で、門についたポストには自分の携帯番号を載せるような人だが、犬の毛並みは大変良い。

その毛並みの良い隣人が、昨日私が家の前を通りかかると、近鉄バッファローズの帽子をかぶっていたから私は感動をした。奇しくもその前日、私はホンダフィットの後ろを走っていたのだが、おそらくそれは新しいモデルのフィットで、だから最初その車がホンダフィットだとは気づかなかった。やがて気づいた。その前に、その車のブレーキランプが、近鉄バッファローズの角のように見えたのである。もう薄暗い時間だったので、ライトを点け、だから私はそれに気づくことができた。

私は近鉄バッファローズに限らず、昔のプロ野球のマークが好きである。昔おばあちゃんちに遊びに行ったときに、日本プロ野球の選手名簿の冊子が玄関に無造作に放り投げられており、私は野球には大して興味はなかったが、それに比較的夢中になって読んだ。おばあちゃんちは玄関を上がると廊下は奥の台所に向かってまっすぐ伸び、手前には左右にそれぞれ扉があり、右が客間で左が縁側のような、大変日当たりの良い廊下に繋がっていた。日当たりの良い廊下は、日に当たってだいぶ色あせていたが、とてもよく滑り、私はそこでスケートごっこをして遊んだ。廊下の突き当たりには、七福神の誰かの木像があった。プロ野球選手名簿は、その廊下へ続く扉の前にあった。それがいつくらいの名簿であるかは、私はその頃はまだ幼かったから、正確な年号は言えないが、ヤクルトスワローズの監督が、関根監督だった時代である。そして、名簿の背表紙には各球団のマークが書かれていて、各球団のマークは、それぞれ示し合わせてデザインしたわけではないからバラバラで、例えば阪神タイガースは迫力満点のリアルな虎だったが、ドラゴンズはだいぶ簡略化された竜のヘルメットをかぶった性別不明の人がバットを構え、バッファローズは四股を踏んでいる。巨人はバットにまたがったボールに目鼻口がついていた。でもこれは広島東洋カープかもしれない。少し前にネットで調べたら出てきたので、気になる人は調べてみては?