意味をあたえる

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AtoZ

ここ2 3日の記事で、AやZのことを書いていたら、昔駅前にあったAtoZという本屋で、カツアゲされたことを思い出した。今は更地だ。いや、道路かもしれない。駅前の風景がずいぶん変わり、道路も拡張されたりしたから。

正確に言うと絡まれたのは私ではなく山木くんのほうで、そのとき私は高校生だった。山木くんも高校生で私と同じクラスだ。私と山木くんは学校から同じ電車に乗って同じ駅で降り、AtoZに寄ってそこからは各々好きなコーナーでぶらぶらしていたら、山木くんがやってきて私が
「帰る?」
と訊いたら
「すまん、やっちまった」
とわけのわからないことを言ってきたので、小声だったので最初はウンコでも漏らしたのかとも思ったがそういう風でもない。私は特に欲しい本などないし、私はその本屋で「風の谷のナウシカ」全巻揃えたことがあるが、それはそのときではなかった。

それで、まあとにかく帰ろうや、て感じになってAtoZには出口がふたつあり、一つは道路に面し、一つは隣接したスーパーの駐輪場に面している。駐輪場は広くて駅前なので、スーパーのお客以外の人も停めている。道路は一方通行でその向こうに月極の駐車場があって線路があって、こちらは東口だ。駅の描写は、どっち口、というのがないと始まらない。その、道路側の扉には見るからにガラの悪い二人組が立っていたので、私たちはスーパーの駐車場の方から外に出た。私たちはどちらの扉からでも帰れたのです。それで、駅に向かって歩いたら、いつのまにか山木くんがいなくなって振り向くとさっきの二人組に山木くんが絡まれている。そこで私はようやく事態を理解した。「事態を理解」てラップっぽい。

山木くんはひょろっとして、顔色は大根のように白いが体型はゴボウのようで、ちょうどゴボウのような髪型をしている。見るからに虚弱体質なので、絡まれても無理ないな、と私は思った。しかし山木くんは笑いのセンスに長けている。当時クラスではバカノート、という催しがあり、クラスといっても参加したり読んだりするのは3人か4人で、私もそこにネタを投稿し、得意のテレビ欄丸ごと下ネタでボケ倒す、などを披露してそれなりに笑いをとったが、山木くんのほうがみんなよく笑う。山木くんのページは絵も書かれたりして、海原雄山もなんなく書ききる。私が覚えているのは、キャプテン翼のネタで、あの、心臓病の子がいたじゃないですか? 私は当時から少年誌よりも、「星の瞳のシルエット」「生徒諸君」「赤ずきんチャチャ」とかばっかり読んでいたから、名前を失念したが、確かに心臓病の男の子がいたのは覚えている。めちゃくちゃ上手いのだが、前半しか出られないとか、そういうのである。それで、私は知らなかったのだが、てっきり彼は死んだと思っていたらなんと心臓病を克服し、今や日本代表にまでなっている。しかし、プレイには昔ほどのインパクトはないらしい。そういう説明がルーズリーフに記載され、活躍度の折れ線グラフが添付され、最後に
「彼は心臓病は直ったが、今度は凡人病にかかってしまった......。」
と結んであって、私は
「うまいな」
と感心しつつ、心の中で、
「くっ」
と思った。そんな山木くんが口がシンナー臭い連中に絡まれている。

連中のターゲットは山木くんに絞られていたから、私自身が逃げ出すことは容易だったが、さすがにそれはできない。今なら、いったん逃げたふりをして警察を呼ぶとかできたかもしれないが、当時もそういうアイデアはでたかもしれないが、私は冷静さを欠いていた。なんとか山木くんを引っ張って、逃げようとばかりしたが、山木くんのロックは簡単には外れない。しきりに、
「裏こいよ」
と言ってくる。「裏」が彼らのホームグラウンドのようだが、何の裏なのかわからない。私の現在の住居の裏は盛り土をしてあるから、断崖絶壁のようになっている。私の子供は秘密基地マニアなので、そこもたちまち秘密基地となったが、危ないのであまり行ってほしくない。でももう小学生だから、今はDSとかに夢中だ。

とにかくやつらの裏はやばそうなので、そこだけは近づきたくないので、私も必死で山木くんに「帰ろうぜ」と腕を引っ張る。私も彼らをいないものとして扱う作戦に出た。山木くんは黙っている。そのうち、道端の焼き芋屋の親父が、
「もうよしてやれよ」
と助け船を出してくれたが、
「うるせえジジイ、ぶっ殺すぞ」
と言ったら黙った。助け船は簡単に沈んだ。私はもっとしつこくとか、気合いを入れて制止してくれないものかと、この焼き芋屋が恨めしくなった。そうすれば、通りを歩く人の誰かが警察を呼んでくれるかもしれない。というか、焼き芋屋が呼んでもいい。とにかく、駅前の通りで私たちはカツアゲされていて、人はたくさん通りかかったが、誰も助けてはくれなかった。最終的に1000円払えば「裏」には行かなくていいというので、私が払ったら彼らは足早に去っていった。1000円というのは、私の財布の中にそれだけしかなかったから設定された金額だった。山木くんは、100円とかしかなかったので免除された。

とりあえず私たちが安全と考える駅の改札前まで私たちは引き上げ、私はもちろん悔しい気持ちだった。山木くんも責任を感じているらしく、
「明日1000円払うよ」
と言ってきて、私は最初は遠慮したが彼も彼なりにやはり悔しいから何度も言ってきたので、私が
「じゃあ、500円ずつで割り勘しよう」
と提案したら納得して引き下がった。しかし次の日になったら忘れたのか、結局払ってくれなかった。