昨日「起きれない」という記事を書いたら、体外離脱をオススメしますというコメントをいただいた。その人はTwitterのアカウントを持っていたから、それはどのようなものなのか訊ねると、以下のサイトを見ればわかると言われた。
読んでみたら、私にもできそうだと感じた。私は金縛りについては体は眠っているものの、脳は覚醒している、と誰に教わるわけでなく自然と認識していたので、どうやら体外離脱している人の金縛りの感覚に近いようだ。私が初めて金縛りに遭ったのは中学二年か三年の時で、そのときが一番はっきりとした金縛りで、はっきりとした、というのはつまり意識のことで、軽く感動したのを覚えている。色々実験しようと思い、声を出そうとしたら歯ががっちがちに固まっていて、
「うー」
とかしか出ない。そのときは怖くなかったが、やがて解けると怖くなったので、ラジオをつけて「オールナイトニッポン」を聴いた。私はラジオを聴く習慣がなかったのだが、クラスにラジオばかり聴く人がいたから、たまには聴いた。その人はラジオから仕入れたネタをクラスでたびたび披露していたが、場の空気を支配するセンスが抜群にないらしく、誰からも相手にされなかった。私からしたら、誰も注目していないところから笑いの種を手に入れられるなんて、宝を手にしたのと同じような感じだが、やはり使い方次第なのだろう。私が本を読み始めたのは、やはり誰も読まないから、という理由が大きい。他の人と違う発想をするためには、他の人と違うものを見聞きしなければいけないというのは、私の古くからの考えで、そういえば数日前、ナミミが今度面接の模擬練習があるということで、質問リストを持って帰ってきて、そこには、
「今まで読んで良かった本は?」
というのがあって、ナミミは本など読まないから私に丸投げした。だから私は、そこに鉛筆で、
「ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」に感動しました。特にゾシマ長老が死んだあとに、その死体から異臭が放たれるシーンは大変ショックでした」
と書いたが、実は私の生涯でゾシマ長老の死体が異臭ネタは、何度か披露したことがある。そんなんで笑いがとれるの? と言われそうだが、取れるのである。ナミミには
「知らねーよ!」
と突っ込まれた。あと、「いつき」という音が耳に入ったとき、大抵の人は
「五木ひろし!」
というが、私は「生きるヒント」を熱心に読んでいたから、つい
「五木寛之!」
と答えてしまう。そしてほとんど見たことのない五木寛之のモノマネを始めるのである。周りは知らないからとても困惑し、そういうのが愉快だ。
それで金縛りの話でした。私はその一度目の金縛り以降はあまり意識がぼんやりしているから、これは金縛りではなく、金縛りの夢だ、と長い間判断していたが、最近テレビを観ていたら
「金縛りとは、夢を見ている状態です」
と、白衣の人がメガネをかけて言っていたから、やはり私の感覚は正しかったようです。上記のサイトでも初っぱなに
「金縛りとは夢であり幻覚です」
と書いてあった。私もよくよく思い出してみると、ドアの具合とか金縛りのときと現実では微妙に異なっていることがあるから、やはり夢だった。
それならいよいよ私もある程度のコツをつかめば、体外離脱して壁をすり抜けたりできそうだが、やはり怖い。上記のサイトでは殺気立った老婆に遭遇したとか書いてあり、そんなことになったら、私はやはり
「覚めろ覚めろ! やはり体外離脱なんて間違いだった!」
となるだろう。私は恐がりなのだ。私の下の子供も怖がりで、よく、
「私は恐がりだから、ひとりでトイレに行けない。わかってるでしょ?」
と威張ったりするが、私はそういうのはズルいと思う。私が子供の頃は学校でも家でも、怖そうな素振りを見せると馬鹿にされたから、一生懸命怖くない風をよそおわなければならなかった。私は小学校低学年の頃は、家のお手伝いとして雨戸を閉めるというのを命じられたが、ちょうど今時期の、北風が吹きすさぶ時期などは外を歩く人もおらず、逢魔が時、というのでしょうか、ちょうど薄暗くなり始める時間で、怖くて仕方ないから、私はとにかくちょっ早で雨戸を閉めなければならなかった。雨戸は全部で三部屋ぶんあり、東から父の部屋、私が「寝るじかん」と呼んでいた寝室、居間だった。父の部屋の雨戸は三枚だったが、残りは四枚だったので三枚よりも時間がかかり、私はまどろっこしくて仕方がなかった。私は東側から閉めていき、玄関は東よりにあったから、閉め終わったタイミングがいちばん玄関から遠かった。それで、居間の雨戸の戸袋の先が家の終わりであり、壁の向こうには防風林の銀杏の木が植えてあったので、そこは薄暗かった。私は雨戸を閉めながら、いつそこからライオンが飛び出してくるのか、怖くて仕方がなかった。ライオンが出てくることがあり得ないことは、私にはじゅうぶんわかっていたが、一度そういうことを考え出すと、もう角からたてがみを振り乱して迫ってくる雄のライオンの姿が、本物のように見えてしまう。当時私の家の庭には芝生が植えてあり、秋になって枯れた芝生はちょうどライオンのたてがみの色と同じだった。私は雨戸を閉め終わると、一目散に玄関までダッシュするのだった。私が恐怖に耐えながらも、雨戸の仕事を放り出さずに終えるということは、つまり私は自分の想像力を制御できていた、ということになる。
だから体外離脱をしても、私はその恐怖に耐えられるだろうが、怖いものは怖いのだった。
それで、私はこんな話をしたいのではなく、私の眠りの浅さについて、つまりそれがしょっちゅう金縛りに遭う原因ですよという話がしたかった。結婚してから妻が後から寝るとき、私はいつもつながった二脚のベッドの端で眠っているが、そのとき必ず私が目を開けるという。私はそんなことは朝になって覚えていないが、どうやら相当小さな物音でも目を覚ますらしい。だから私は前世は暗殺者とか、うかうか寝てられない職業だったのかもな、殺し屋は臆病な人しかできないと、ゴルゴ13にも書いてあったから、そうかもな、と思った。ゴルゴ13では犬が最後に崖に向かって飛び込む話と、あと客船を丸ごと借り切って健康診断をしたり、それと象の絵はがきが殺しの依頼になっている話も好きだ。私の眠りは相当浅いようだが、寝不足とか昼間に眠くなって仕方ないというのはない。