意味をあたえる

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途中式(7)

前回までのあらすじ:「私」は夏に転職を決意した


面接に出たのはアロハシャツを着た中年の男だった 1階が倉庫で2階が事務所だった 階段は外にあった 駅からは離れていた 
「こんな格好で申し訳ない 土曜日は「ノー・ネクタイ・デーなんだ」
と言いながら自己紹介をした 応接室に通してくれた 男の他には若い女の事務員がひとりいた 女の顔は縦長でカーディガンを羽織っていた 結果的に私はその会社に採用になったがその後社内で「ノー・ネクタイ・デー」という言葉を聞くことはなかった 代わりに会社の女性社員は必ずパンツスーツを着用しなければならないという決まりがあった セクハラ対策なのだそう しかし人の少ない土曜日になるとフリルのついたフレアスカートを履いてくる人もいた 土日も営業していた


一次試験は筆記試験だったが結果が書いてあると思われる紙切れを眺めながら男は「上々だった」と言った メガネの奥の眼を細めた 老眼なのだろう だんだん面倒くさくなったのか少しすると「点数はいちばん良かった」と言い出し「採用するよ」と言った 「え?」と言うと いつから来れるかという話になった 「8月」と言うと「じゃあ8月」となった そのときは6月で蒸してはいたが本格的な暑さはまだ先だった 私が公園で大盛ペペロンチーノを食べていたころだ ペペロンチーノ以外も食べただろうが全く記憶がない プラスチックの皿がぺらぺらで食べていると太ももが熱くなった 麺なら熱も逃げるだろうがチャーハンなどでは大変だろうと思いながら黙々と食べた 公園の周りには軽バンの屋根にハシゴを載せた車だのが停まっていてみんなお昼なのだろう、私は勝手にそういう人等に連帯感を抱いた


そういう風景が一気に懐かしくなった 男がメモ書きで給料の額を伝えた 子供の人数を訊かれたので
「2人です」
と答えるとじゃあ家族手当はこれこれという話をした 家族手当は途中でなくなった 手当はなくても家族はいた 男はそのずっと前に定年を迎えて辞めた その間に一度くらいしか会わなかった 立川は
「あいつはカタギじゃないんだよ」
と教えてくれた 手の指に(人差し指か薬指、忘れた)指輪を模した刺青があるそうだ それがヤクザか元ヤクザのしるしらしい 私はそういうのは知らなかった ヤクザ映画もほぼ見ない というか映画自体まず見ない この前黒澤明「乱」を見たがズルい女がいてすぐに死ぬのかと思ったら案外最後まで残った ズルい女がすぐ死ぬのはこのパターンの反転なのだろう あとピーターがキスマイの藤ヶ谷くんに見えてしかたがなかった 藤ヶ谷くんが時代劇に出てたときそっくりだ 藤ヶ谷くんのファンは試しに見ると良い