意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

懐かしいという感情は記憶の改ざんによって生じる


バーコードを読み取るリモコンは再生ボタンなどがついたやつとは別にあって、ボタンも最小限しかなくて細長い。下の方がとんがっていて、先っぽが赤く光る。その光にバーコードをなぞらせると「ぴっ」て音がして、日付やチャンネルを最後まで入れ、デッキに向けて転送ボタンを押すと

「ぴっぴっぴっぴっぴー」

と鳴ってかわいい。その後デッキは自ら電源を落として予約待機の状態に入る。嵐の前の静けさ、といった風に。録画をハードディスクにするのしか知らない人だと、ビデオテープに録画するというのが、どんな具合なのか、想像もつかないだろう。テープの回る音が騒々しかった。しかし、そうやってがちゃがちゃ言っているのを聞いていると、ちゃんと働いているんだと、嬉しくなる。液晶には二本のバーが立っていてそれが波みたいに伸び縮みして、それが左右のスピーカーの音量を表している。今見ている番組と音が合っていないのは、録画中は違う番組を見るからである。CM中に、肝心の番組のほうにチャンネルを合わせると、音のバーはちゃんと対応していて、私は安心する。


バーコードの別紙は、あるときからリモコンの調子が悪くなり、私たちは赤い光源を楊枝でほじくったりした。ホコリが詰まったと思ったのである。すでに何度も作業をしているうちに、例えば私の弟は癇癪持ちで、自分がやらないとひっくり返って泣き出すから、私がやった後にいったん予約を取り消し、それから弟が母の手を借りながらバーコードを読みとったりして、リモコンも別紙も、酷使されていた。別紙のほうも、リモコンを強くこするから、紙のいちぶぶんがへっこんだりした。そういうのも、予約ができなくなった理由だろう。やがて、予約はデッキ本体で行うようになり、そういう作業はなぜか妹が得意だった。妹は今でもテレビっこなのである。


そういえば、別紙の裏表紙には、かなり未来の日付のバーコードも用意されていたが、結局それを活用法する前に別紙はおろか、デッキ本体も使えなくなった。今はそこに印字された日付よりもずっと先の未来だ。


※小説「余生」第54話を公開しました。

余生(54) - 余生