意味をあたえる

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サングラス ぬるい

帰りに大通りに出て、車が北を向くとくわっと西日がまぶしく、つまり車は北を向いたわけではない。私は助手席に置いてあるサングラスを手にとって袋から出し、急いでかけたらぬるかった。追い越し車線を銀色のセダンがぶぉうん、と追い抜いていった。私はなにせ片手ハンドルだったから、それほどスピードが出せなかったのだ。もう片方の片手でサングラスをかけ、そうしたら大阪の漫才師が頭をはたかれたようなかけ方になってしまったよ。会社を出る前、Tシャツに着替えたらそれはひんやりとして気持ちよかった。それはすぐに忘れた出来事だったが、ぬるいサングラスで思い出した。対の記憶になったらしい。

帰り道に私はポストを探していた。友人の結婚式の招待状の返事を出すからである。招待状の「よろこんで」を平仮名で書いたら、平仮名ばかりのぶんめんになってしまったよ。私の名前は漢字で書いたし住所も漢字だ。それなのにすかすかで、小学生の年賀状のようになってしまった。私は行きもポストを探しながら走っていたのに、帰りも同じ道なら当然あるわけないのにバカだなーと思った。帰り道は風景が違うから、という言い訳を考えたが、それだって違う道の方が発見する確率はずっと高い。Bルートであれば、ローソンがあるから、そこなら確実に出すことができる。Aルートにもある気がしたが、よく考えたらBルートに二軒あった。しかしローソンのレジの前のポストに出したら、レジのバイトに見られやしないかと心配になってしまったよ。私はローソンでバイトをしたことがないからわからないが、あれはちゃんと鍵がかかっているのでしょうか? 私はセブンイレブンで昔アルバイトをしていて、ブラックキャットの宅急便を扱っていたが、鍵などなかった。それで夕方四時頃に背の低いドライバーが取りに来て、そうしたら荷物が重くて、
「なにこんな重いの引き受けてんだよ」
と怒られた。私は重すぎるとダメなことは知らなかった。大きさにかんしては、縦横斜めの長さをメジャーで計って長けりゃ紫の料金でいいや、と思っていたが、重さは知らない。


※小説「余生」第33話を公開しました。
余生(33) - 意味を喪う