意味をあたえる

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ペンギン・ハイウェイ

森見登美彦の「ペンギン・ハイウェイ」を読んだ。ネットで「オススメの小説は?」というやつでだいたい上がってくるやつである。私は森見登美彦は四畳半神話体系と太陽の塔夜は短し歩けよ乙女をすでに読んでいて最近もきつねの話を読んでいた。きつねの話は終始不穏で良かった。なのでペンギン・ハイウェイも楽しめるだろうと思っていてが後回し、後回ししてしまっていた。


昨日は仕事で新幹線に乗っていてその間に終わりまで読むことができた。新幹線は静岡あたりの小さい丘の間を抜けていくあたりが好きだが昨日は小説を読んでいたからあまりその辺は見ることができなかった。終わりは決してハッピーではなかったが湿っぽくないので良かった。食事で言うとくどくなくて胃が重くならなくて良かったみたいな具合である。ジャバウォックという得体のしれない物が出てきて、それが宮崎アニメのカオナシとかカカシみたいに意味がありそうな気配がするのも良かった。あと終盤でお父さんが暗示的な言葉を残して突如外国に行ってしまうのも、やはり意味がありそうな気配がして良かった。意味がありそうな気配、と連続で書いたがこれは昔はなんとかのメタファーとか、時代を象徴するなんとかとか考えてみたけども考えて終わる類の物で、今はそういうポイントを見つけるだけで考え抜いた気分になれるから良かった。


でもそれよりも読んでいていちばん楽しかったのは街並みの描写で給水棟とかショッピングセンターとかバスターミナルの自動販売機とか出てくると心が弾んだ。話の中でも少年たちが探検をするが、暗渠とか出てくると心が弾んだ。緻密なジオラマを眺めているのと同じ気持ちになるが、決して再現できない地図なのである。「草原」と呼ばれる場所に行くのに最初は川に沿って行くが、終盤は少しでも早く行かなきゃいけない事情となり、車通りの激しい道路を排ガスにまみれて歩くシーンが心細くて良かった。それは私の小学時代の通学路もショートカットできる国道があって、そこは通ってはいけないから人が少なく、それでも一人で歩いてみたくなって、そのときの記憶は強烈に残っているのである。


そういえば「ミレニアム」という小説を読んだときも人の依頼で貸別荘みたいなところに済むがそこが何しろスウェーデンでも特に寒いところらしくて、やれ何を買い込んだとかそういうのを読むのが楽しかった。それに比べて後半の銃撃戦は今から思えばあまり楽しくなかった気がしてくる。ストーリーはオマケなのである。