意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

壁をよじ登る乳児

これは昨夜見た夢ではないから、初夢でもなんでもないが、一週間くらい前に赤ちゃんが壁をよじ登る夢を見た。赤ちゃんは複数いて、赤ちゃんと言っても首はすわっていて、ハイハイはできるくらい。しかしよじ登る体勢は元からハイハイのポーズであるから、あるいはもっと大きい子供だったのかもしれない。また、壁というのもいくらかは傾斜がつけられていて、コンクリート製であるから、平らだった。

そこは駐車場から幼稚園へ行く途中の道で、道も坂になっていて、幼稚園は坂のてっぺんの標高に合わせて平らにしているから、そのような高い壁も出きるのだ。かなりの盛り土をしたのだろう。

壁をよじ登る赤ちゃんとは、幼稚園に入りたくても入れなかった子供ではないかと解釈する。幼稚園は保育園と違って3歳にならなければ入れないから、その人たちはずるいと思ったのかもしれない。

朝起きると居間のテーブルの上にはお年玉袋が2つ置かれていて、それは飯村の二人の娘の分であった。妻が中身を確認すると、三千円ずつ入っており、下の子はともかく、上の子はもう中学生であるから、少し物足りない金額に感じた。
「お母さんが、今年は少なくて申しわけないって」
と彼の妻が言った。義母の談によれば、この春に妻の妹が出産を控えていて入り用だから、ということである。
「あきちゃんは、どうせすぐに保育園に預けるのに、最新のベビーカーを欲しがる。ベビーベッドも。うちは叔母さんのを借りたのに」
「それ使わせればいいじゃん」
「叔母さんちはもう使わないから、ベッドは外に置きっぱなしだよ。洋ちゃんが電気屋さんに勤めているから、最新のを欲しがるんだよね」
洋ちゃんとは、義妹の夫である。飯村は彼を「柴田さん」と呼ぶ。洋ちゃんは家では飯村のことを「ノブちゃん」と呼んでいるらしい。

飯村は、ケーキを食べながら、下の子が生まれたとき、チャイルドシートを買うために奔走したことを思い出した。ケーキは昨日の余りで、コストコで買ってきたティラミスである。ティラミスは洗面器のような容器に入っていて、まだ半分近く残っている。志津には全部食べるなと、注意しておいた。そのうちに子供たちも降りてきて、昨夜録画した歌番組を見出した。テレビ画面の中で、年が明けた。

チャイルドシートは通常、乳児用、ジュニア用と、その間用の三種類があるが、夫婦は、そのたびにいちいち買い換えるのを勿体なく思い、全部が一体型になったものを探していた。しかし、赤ちゃん本舗にはそういうのは置いておらず、二段の長細いディスプレイには同じ向きに揃えたチャイルドシートが並べられ、ポップには「○歳~○歳用」と書かれている。飯村はそこに義母ときた記憶はない。別のベビー用品店にもなかった。そもそも全年齢用のシートなどあったのか。飯村夫妻はどこでそれを知ったのだろう。カタログがサイトで見たのだろうが、もう忘れてしまった。飯村は今ほどインターネットはやっておらず、そもそも家にはPCもなかった。今から七年前の話である。

何軒もはしごしてから、ようやくカー用品店で目的のものを見つけた。カー用品店のチャイルドシートコーナーはとても狭く、隅に追いやられた件の商品は、透明のビニールにくるまれていて、いかにも安っぽかった。