朝からバターピーを食べたら気持ち悪くなった。今日は妻も休みだったが、妻は朝から歯医者に行き、私は一人のうちに、ひとりでできることを済ませようと思い、先週新しいパソコンを買ったので、そろそろ新しい小説に取り組もうとか思っていたが、まずDropboxをインストールしようと思い、そういう設定をしていたら、ハードディスクのうおんうおんいう回転の音に、私はすっかり参ってしまった。パソコンの電源を落として横になっていても、音はやまず、画面を見ると、更新ファイルを20個くらい入れていた。パソコンなんて時代遅れだ。
そうこうするうちに妻が帰ってきたが、帰ってくるなり学校から電話がかかってきて、ナミミが保健室にいるから迎えにくるようにとの指示だった。
「何分でこれますか?」
など、向こうの知りたいことを聞くばかりで、ちっとも熱がどうとか、お腹がどうとか、教えてくれない。
少しして妻から電話があって、
「今マックにいるけど、なにか要る?」
と訊いてきたので、別に何もいらなかったが、
「じゃあ、アイスコーヒー」
と頼んだ。何故か半笑いで私は言った。そうして妻はコーヒーをもってやってきた。透明のカップの中が茶色っぽくて、私は嫌な予感がして、飲むと案の定甘かった。
「甘いよ」
「店員にはちゃんと、「何も入れないで」て言ったのに。作っている人は違う人なのかしら」
「マックはダメだね」
私は何口か飲んだが、頭がいたくなりそうなので、妻にあげた。妻の飲み物はなかった。ナミミは自室でシェイクをのんでいる。熱が37.8度あるらしい。妻はあっという間にコーヒーを飲み干して、容器をヒーターの上に置いた。ヒーターの上には学校の手紙が積まれていて、私はカップの水滴が、紙を濡らすだろうと思った。ホットコーヒーでも良かった。でも今日も30度を超えると言うから、ホットなんて、馬鹿みたいだと思ったから、アイスにした。暑いとホットを頼む人が減って、ホットのノズルが不潔になると思うから、やほり頼めない。私は実のところ、今は寒いから、それでもホットでもよかったかもしれない。
「外は暑い?」
「暑いよ、汗かく」
「じゃあ散歩してくるわ」
そう言って私は外に出た。体が重かったが、家を出てすぐに下り坂なので、相殺すれば、平地歩くのと変わらなかった。坂道は左が竹やぶで、右側が雑木林だった。竹やぶの中にはいくらか木も混じっていて、逆もそうだった。竹やぶの奥に、新たな墓を発見した。隣の家の墓だろうか。正確には隣の隣の家だ。庭が広く、一部が檻になっている。昔警察犬の飼育をしていたらしい。警察犬じゃなかったかもしれない。犬はいなくなり、檻だけ残った。結構な数があり、塀から中をのぞき込むと迷宮のようである。ミノタウロスでもいそうである。
坂道は薄暗く、妻は中学生の頃、そこでイラン人に抱きつかれたと言っていた。私が10代のころは、近くの工場に中東の人が働きにきていて、私たちはなんでもかんでも「イラン人」と呼んでいた。「イラク人」とは呼ばなかった。「カタール人」とか「カザフスタン人」とかは、当時はまだ知らなかった。