意味をあたえる

文章としかいいようがない fktack@yahoo.co.jp

影がのびる

三連休だった。そして今日が最終日でした。

朝起きたら冬のように寒く、私は
「冬のようだな」
と思った。家にいると寒く子供が
「送ってくれ」
と言うので車で送ったら、そのあいだは暖房をつけられるので寒くはなかった。ちょうど良かった。まだ10月なのに(冬のようだ)と形容するのは少し乱暴過ぎやしないかと思われそうだが、私は寒がりなのである。寒がりはこの時期がいちばん寒いのである。おまけに妻や子供は暑がりだからちっともそういう理解を得られない。「寒い」と私に話をあわせるものの、まだまだ半袖でうろうろしてやがるのである。私は起きてすぐに靴下を履かないとやりきれない。だから、この家の人々はとんでもない嘘つきの集団だと思っている。早く11月になってほしい。「11月」という言葉の響きが、暖房機具に似つかわしく、変な目で見られずにあったまることができる。今は太陽と毛布しか頼る相手がおらず、心許ない。

そういうわけで少し面倒だったが
「お風呂に行こうっと」
と思った。言葉にすると妻が羨ましがった。妻は仕事だった。妻の方が長風呂なのである。私は比較的早く、若いときは入っても退屈で仕方がなかったが、サウナに入るようになってから、サウナ、水、の繰り返しが好きになり、何度か行ったり来たりすると眠気0%という感じになって、しゃきっとする。だから今日も入ったらそこの銭湯にはサウナの中にテレビがあり、中でビビるの大木と篠原ともえが司会をやっている番組がやっていてちょうどファッションのコーナーだった。膨張色は上に何かを羽織るのが鉄則、太いボトムには上着をインするのが良い、ただしスタイルの良い人に限る、だそうだ。私はビビる大木は昔は好きでも嫌いでもなかったが、何年か前の特番で、そこで日本の芸人たちがみんなでハワイに行くという催しがあり、そこで大木が先輩風を吹かせて後輩のスギちゃんが恐縮してやまないという、シーンがあり、その両サイドにはまた中堅の芸人がおり、彼らはヤシの木かなにかでできた屋外の四角い卓を囲んでいたわけだが、ちっともハワイという感じがしなくて不愉快だった。ハワイにも部活とかあるのかなあ、と私は思った。以来大木が嫌いなのである。スギちゃんは好き嫌い以前だが。

それで番組には安田大サーカスの声の高い人が出ていて、この人は(クロチャン)という名前なのだが、黒いのはどう考えたってもう一人のドロヌーバみたいなやつの方なのでいつも混乱して、じゃあドロヌーバってなんだっけとか考えて、彼はヒロという名前なのである。広島県みたいに広いからという覚え方でいいだろうか。

あと若手の女芸人が「今夜「踊るさんま御殿」に出ます」と言ってやってきて、笑っていいともが終わった今、私がでる可能性のあるテレビ番組は「さんま御殿」かもしれないなあと思った。

サウナに入る前には露天風呂に入り、青天井が気持ち良かった。風が冷たく、私は体がなかなか熱くならないもどかしい感じが心地よかった。日向は暑かったので、建物の陰にいた。風はよく見ると建物の排気口から出されるものだった。サウナに行ってからまた外にでると影が伸びていた。屋外の終わりにはガラスの柵があり、そこにはベンチに立たない旨の注意書きがあった。柵は下半分が塗りつぶされていて透明ではなく、どうやらどうがんばってもちんこはこの高さをこえないという目印のようだった。柵の向こうには関越自動車道が見えた。

そろそろサウナや露天風呂にも飽きてきたので再び中へ入ると、昨日読んだ若林奮の中で「わたしと風景の間にあるスペースについて」というのがあって、確かに中から外を見ると間にはガラスがあり、そこには二次元の年寄りがいて彼はふとっちょの白髪で、執拗に一人掛けの椅子に手桶で湯をかけている。気が済むと彼はそこに腰掛けた。

帰りがお昼だったので、蕎麦でも食おうと思ったが、道を間違え、蕎麦屋だと思っていた場所は紳士服のアオキだった。なのでその向こうのトンカツ屋にした。ジャストでお昼だったので私はせっかくの休みだし少しずらそうと思ったが腹が減ったので入った。隣に6人くらいの老人の集団がいて、真ん中のリーダー格の白髪の男の声がうるさい。隣はハゲ頭だが、静かだった。髪の量で喋れる時間が決まるルールだろうか。話の中で「先生」と「会長」が出てきたが、どちらが立場なのかはわからない。そのうち話しているこの男が「先生」のような気もしてきた。とにかく話をまとめると先生は横浜で食事会をしたがっているが、会費が3000円になってしまい、そうすると5人しか集まらず、5人では会費が上がってしまうという、幹事泣かせスパイラルに陥っているという。私は老人も大変だなあと気の毒になった。死ぬまでこういう人間関係のなんやかやに巻き込まれると思うと憂鬱である。