若い人の記事で私はこういう人間だからこういう目標設定ですよみたいなのがあって一方の私は自分はどういう人間かままならないから設定ができないことに気づいた。私は運が良かった。その理由は私は初対面の人と話をするのが苦手だったのでなるべくそういう仕事を選んで就職したら入って何日もしないうちに
「はいこのリストに電話かけて」
と段ボール箱を渡され(リストは段ボールにあった)しかもそれは催促の電話だったからずっと嫌だなあと思いながらやっていた。数年そういうことを続けて嫌だなあというのは相変わらずだが電話で直接話すと誤解などがすぐ明らかになるし挨拶文みたいなのもすっ飛ばせるから手紙やFAXよりか楽だなと思うくらいにはなった。メールはまだ年に数本打つ程度だった。しかしそのうち転職しようと思って今度こそあまり人と話さずに済む一日中机に向かえる仕事にしようとそういう仕事を選んだら結局3カ月しか続かなかった。嫌いとか以前に体がついていかなかった。体がというのは嘘で私は体はぴんぴんして食欲もあるし夜もぐっすり寝たが足は確実に向かなくなった。会社の最寄りの駅にいつも尺八を吹いている青年がいて彼の孤独を思うのが私のわずかな癒やしだった。青年はあるとき友達らしい人としゃべっていて裏切られたような気持ちになった。腕の隅々に彫られた刺青が急にわざとらしく見えた。ある朝もう出社しない旨を会社に伝えその足で職安に行き帰りに天下一品でラーメンを食べた。広いテーブルの席でまだお昼前だったので店内はガラガラだった。そこではふはふ言いながら食べ私は比較的すっきりした気持ちだった。本当の鬱などになる前にこうして職安にいける元気のあるうちにやめられてラッキーだった。
しかし辛い日々を送っているときに見た「今の状況は実はぜんぶ夢でした」という夢は起きたときほんとうにつらかった。