実家へ行ってゴルゴ13の182巻を読んだ。私はたまにゴルゴ13を読みに実家へ帰る。ゴルゴ13は父が購読している。私は父が死んだらゴルゴ13を形見としてもらおうと思っているが妻は良い顔をしない。妻とその両親は本を読むという文化がなく、家に本棚という物がない。私が子供の頃に本の重みでアパートの二階の床が抜けるという事故があったが、それを鵜呑みにしてだから必要以上の本を持つことは身の危険にさらすことと考えている。しかしなんでもそうだが、ニュースで取り上げられることは滅多に起きることではないのだ。「本の重みで床が抜ける」というニュースは私の生涯では一度しか耳にしたことがない。しかしこうして記憶に深く刻まれたのは何故だろう。同じように妻の記憶に刻まれたのは何故だろう。
ところで私の実家の庭は蚊の量が極めて多く、そして強い。服の上からでも平気で刺してくるし、母が言うにはジーパンの上から刺されたこともあるそうだ。ジーパンはジーンズのパンツのことであり、あるときテントの布から作られたようだ。従って実家の庭にテントを張っても蚊から身を守ることは難しい。子供の頃よく父に「キャンプがしたい」と訴えると
「庭にテントでも張って寝てろ」
と言われた。父は仕事人間で子供たちを旅行や遊びに連れて行くことがほとんどできなかった。だから私は自分が人の親になったら子供を退屈させないように色んなところに連れて行ってやろうとか思うかと言えばそんなことはなかった。私は今でもそうだが人に誘われると黙ってついて行くような都合の良い男であり、自転車で片道20分とかかけて友達の家に行ったりし、そこの隣の材木屋の材木から飛び降りたりして遊んだ。従って退屈などしなかった。私の妻はしかし子供の頃から色んな場所に連れて行ってもらったのだろうか。義父が仕事人間じゃなく、ゴールデンウイークや夏休みや年末年始はいつも一週間休んでいた。義母もずっと専業主婦だからそれが当たり前のことと思っており、従って私が土曜に仕事に行ったりすると毎回
「仕事か?」
とさも意外そうに訊かれ、私はそのたびにイラっとする。台所のカレンダーには私の休みの日には青いサインペンで丸がくれてあるのだから、それを見ればいいのに、義母は見ようとはしない。妻の休みはピンクのサインペンで丸がくれてあった。